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【総合監修】神戸市立医療センター中央市民病院 脳神経外科 部長 坂井 信幸 先生
    【監修】先端医療センター病院 脳内管内治療科 医長 坂井 千秋 先生


Vol.1 脳ドックの功罪

神戸市立医療センター中央市民病院
脳神経外科 部長
坂井 信幸 先生

脳ドックは、病気を発症する前に発見し早期治療に役立てるために行われている「人間ドック」を手本に、脳動脈瘤や頚動脈狭窄症など脳卒中を発生する可能性のある脳血管疾患や脳腫瘍などを、発症する前に見つける目的で行う検査のことです。

検査としては、MRI(磁気共鳴断層撮影)/MRA(磁気共鳴血管造影)やCT(X線断層撮影)/CTA(CT血管造影)、超音波検査などの画像検査と、人間ドックと同様の血液検査、尿検査、心電図などを適宜組み合わせて行われます。

命に関わる病気を未然に防ぐ

脳動脈瘤は、突然破裂してくも膜下出血を来たし、約半分の方が死亡または寝たきりになる病気で、検査を受けた人の約1%に見つかると言われている病気ですので、脳動脈瘤の発見は脳ドックの目的の中で大きなウエイトを占めます。

脳ドックで偶然、脳動脈瘤が見つかったら、開頭手術(クリッピング手術)や血管内治療(コイル塞栓術)を受け、破裂する前に病気を治すことが可能です。

家族や知人などがくも膜下出血になったのをきっかけに自分も心配になって脳ドックを受けたところ、破裂の危険が無視できない脳動脈瘤が見つかり、血管内治療を受けてくも膜下出血にならずに済んだという患者さんをたくさん経験しています。

また、発見当初は大きさが3-4mmで破裂の危険はさほど高くないと説明を受け、1年に1回の定期的脳ドックで経過を観察していたところ、形状の変化とともにやや大きくなったと指摘され、やはり血管内治療を受けて、病気を治したというケースもあります。

開頭手術を必要とする患者さんも含めると、当科では年間200名を越える無症候性の脳動脈瘤の治療を行っていますが、その中に脳ドックで脳動脈瘤が発見された患者さんがたくさん含まれます。

命に関わる病気を未然に防ぐことができることは、脳ドックの「功」と考えられます。

命に関わる病気があるという不安

一方、患者さんは、脳動脈瘤が脳ドックで発見されたら、くも膜下出血を来す可能性があると説明を受けます。命に関わる病気があるという不安はいかばかりでしょう。

脳動脈瘤が大きかったり、不規則な形状をしていたり、よく破裂する場所にあったりすると、破裂の危険が高いと説明を受けます。
もし小さくて破裂の危険は少ないと説明してもらっても、
「破裂しませんか?」と医師に聞くと、
「わずかですがその危険はあります」という答えが返ってきて、
決して「破裂しません」とは言ってくれません。
患者さんの不安な気持ちはますます強くなり、日常生活にまで影響しかねません。
「この脳動脈瘤は開頭手術でも血管内治療でも、治療の危険が無視できません。よく考えてください」と説明され、毎日気分がすぐれず生活が一変してしまう可能性もあるのです。
脳ドックの「罪」の1つです。

人生を一変する手術

その不安な気持ちを解消するために、開頭手術や血管内手術を受けたとします。
しかし、これらの治療はいつもうまくいくとは限りません。
もともと脳動脈瘤は破裂すると命に関わるくも膜下出血を来たす病気です。
血管内手術中に予期せぬ破裂を来たし、命を落とすこともあります。
何とか出血をコントロールできても、大きな後遺症を残すこともあります。

コイルやステントは身体にとって異物ですので、血管内で血栓が形成され脳梗塞に発展することがあります。

脳梗塞に伴う後遺症を防ぐために、血管内手術では術前から術後数ヵ月以上にわたって抗血小板薬(血をさらさらにする薬と説明を受ける薬)を服用する必要がありますが、思わぬ副作用が出ることもあります。せっかく受けた治療がうまくいかず、「治っていませんので、破裂の危険が残っています」と言われるかも知れません。

そもそも脳ドックを受けなければ、発見された脳動脈瘤の治療を受けなければ、人生が一変することはなかった。
やはり脳ドックの「罪」と言えます。

見つかるのは脳動脈瘤だけではありません。せっかく元気に暮らしているのに、「無症状ですが脳梗塞の所見があります」と言われ自信を失ってしまうかもしれません。
「知らぬが仏」という言葉があります。
明日のことは誰にもわかりません。

病気を未然に防ぎたい、病気がないことを確認して安心して暮らしたい、という気持ちで受けた脳ドックによって、命を落としたり、後遺症を背負ったり、不安な気持ちが消えず愉快に暮らせなくなることもあり得ます。

脳ドックには「功」と「罪」があることを理解した上で、受けていただきたいと思います。

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テルモは、グループ会社のMicroVention社と共に、くも膜下出血の予防に取り組んでいます。